コンパウンドスタートアップについて

(noteから移行した記事)

最近よく耳にするのでコンパウンドスタートアップについて簡単に調べて整理した。

コンパウンドスタートアップとは

コンパウンドスタートアップは立ち上げ時から複数プロダクトを同時に作るというものであり、一般的に言われている"スタートアップは初期ひとつのプロダクトにフォーカスすべき"という言説に反したやり方である。
ただし、単に複数プロダクトを立ち上げるというものではなく、下記2つの特徴を持っている。

- 特定のデータ(従業員データなど)を中心にその周りにプロダクトを立ち上げる
- プロダクト間の連携を価値としている。(このアイディアを提唱したRipplingのCEOは“the product is the integration”と発言している)

なぜいまコンパウンドスタートアップなのか?

これには顧客ニーズ、競争環境、実行環境の3つのポイントがある。

顧客ニーズ
一般にプロダクトのバンドル->アンバンドルは繰り返すと言われている。
例えばバンドル化されたプロダクトが支配的なタイミングでは、1点突破でより価値の高いポイントソリューションが複数出現し、それぞれの領域でバンドル化されたプロダクトを置き換えていく(アンバンドル化)。しかし、一旦その置き換えが進むと、各ソリューション間での連携の課題感が増え、バンドル化したプロダクトへのニーズが増える。というのを繰り返すということである。
ここ十数年はオンプレで導入されていたバンドルプロダクトをクラウドSaaSのポイントソリューションが置き換えてきていた。
特にコロナ初期はポイントソリューションの導入が一気に進んだ印象である。しかしその後の調査の中で、各ソリューション間の連携に摩擦があり、結局業務が効率化されていないと感じている企業が多数いることが分かっており、今は揺り戻しでバンドル化へのニーズが高まっている。

競争環境
競争環境の高まりからシングルプロダクトのMoatについての懸念があり、何かしらの形でMoatを高める必要が認識されるようになった。Microsoftによって苦しんでいるSlackやZoomがよく出る例であるが、シングルプロダクトでは、市場が大きくなったタイミングでBig Tech等が参入し苦戦を強いられてしまう可能性がある。コンパウンド化により、より強固なMoatを築くことができる。

実行環境
一方でコンパウンドスタートアップはやろうと思えばできるというものではなく、2つの変化がコンパウンドスタートアップを支えている。

① 資金調達環境の変化
多少の上下はあれど基本的にスタートアップの資金調達環境がよくなっていっている。潤沢な資金を必要とするコンパウンドスタートアップに重要な要素である。

② 開発効率の向上
AWSGCPといったクラウドの出現による開発効率の向上も、潤沢な資金を必要とするコンパウンドスタートアップを可能にしていると思われる。

コンパウンドスタートアップのメリット

  1. プロダクト間のスムーズな連携を実現可能
    まさに顧客側が困っている問題であり、in-houseで複数プロダクトを開発することで解決できる問題である。

  2. 複数プロダクトで同一のUX/UIを提供できる
    同一もしくは似たUX/UIを提供できるので、顧客側の学習コストをさげることができる。Microsoftのoffice製品が思い浮かぶ。

  3. 安価な値段で提供できる
    バンドルで売ることができ、かつ内部で共通モジュールを使いながら開発効率を挙げられるので、1プロダクト単位でみると競合よりも安価で提供することができる。

  4. 精度の高いMLモデルを構築することができる
    特定のデータを中心にプロダクトを立ち上げているので、関連したデータが溜まっていきモデルの学習に寄与する。MLの活用が進む中で大きなメリットとなる。

コンパウンドスタートアップのデメリット

デメリットは基本的にはその難易度である。
スタートアップはフォーカスすべきと言われ続けていたのは、資金面で劣るスタートアップが勝つには1点突破しかないからである。そこを分散させるというのであれば、より潤沢な資金を集めそれをより効率的に使う必要がある。資金調達環境が年々良くなり、開発効率が向上しているからとはいえ、難易度はまだかなり高い印象である。

上記の課題をクリアするために

資金調達面
立ち上げ初期から潤沢な資金調達を行うのはかなり難しく、コンパウンド戦略を選択したスタートアップ、RipplingやLayer Xなどはどちらも連続起業家であり、一つ前の起業を成功させている。そうでなければ必要な量の資金を集めるのはかなり難しいように思う。

資金効率面
効率的な開発を行うことができるように、複数プロダクトから使用できる共通基盤の開発を行っている。これは先述した顧客側のインターフェースに現れる部分には限らない、裏側でのみ使われるものも含まれている。ここをいかにうまく行えるかが一つポイントになりそうな印象である。

所感

ざっと調べただけの所感だが、このモデルは本当に上手に作らないといずれ開発効率が落ちていきそうな印象である。共通モジュールを各所に作るということは、外部環境の変化に合わせて特定のプロダクトのみを変更したくなったときにモジュールとの互換性のためにできないとか、もしくは共通モジュールをアップデートするのに影響範囲が尋常じゃないみたいなことが起きる可能性がある。
あらゆるスタートアップが採用すべきという類の戦略ではなく、上述した4つのメリットが最大限活きる領域(例えばBtoB SaaSなど)で選択を検討すべきものだと感じる。